いまはとて　天の羽衣　着る時ぞ 君をあはれと　おもひいでぬる −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 十五夜、満月の時。 月に帰らなければいけないかぐや姫が、 翁に渡した手紙に書かれていた句です。 天の羽衣を着てしまえば物思いがなくなり、 お世話になった翁に対して痛ましい、愛しいと思う気持ちさえなくなってしまいます。 そんな気持ちが消えてしまうまえに、かぐや姫は手紙にそう記し、不老不死の薬を添えて翁に渡しました。 それを見届けた天人が天の羽衣を着させると、感情を失くしたかぐや姫はそのまま車に乗って昇ってしまったのです。 渡された手紙を読んだ翁は悲しみ、「どの山が天に近いか」と尋ね、ある人から、駿河の国にあるという山だと言うのを聞きました。 そして、 「会うことも無いので、こぼれ落ちる涙に浮かんでいるようなわが身にとって、不死の薬が何になろう」 と詠み、かぐや姫からの不死の薬と手紙を使者に渡し、日本で一番高い山で焼くように命じたのです。 「不死薬を焼きに山へ登った」ことから、 その山を「ふじの山」と名づけたと言われています。 言わずと知れた、日本人なら誰もが知っている『竹取物語』の最後のシーン、 かぐや姫が天の羽衣を纏い、記憶を失くしながら月の都に帰っていく瞬間を『中秋の名月』という文字で描きました。 美しい月を見ながら書かれたであろう、作者不明の日本最古の物語。 真っ暗な空に柔らかい光を纏って浮かぶその姿に神秘を感じるのは、今も昔も変わらないですね。